感想:本を読む人だけが手にするもの(藤原和博 著)
中学生時代は、片道1時間少しの電車通学でもあったので、よく小説を読んでいた。いわゆる乱読をしていたが、国語の成績はあまりよくなかった。高校時代は主に、英単語や古文単語などに時間を充てていたし、医学生・医師になってからは医学書を読むことしかしていなかった。医学生になってある時、頭が良く、弁が立つ友人に「小説なんて読んでも仕方ない。結局は自分で経験したことをベースに、頭で考えるしかない」と言われて、「確かに」と思ってからは更に純粋な小説を読まなくなってしまった。
コロナウイルス流行に揺れるアメリカの都市ロックダウンで時間があり、また子どもへの影響を考えて、読書を再開した。なぜ読書をするのか?という疑問を解決してくれる本に出会った。
本を読む人だけが手にするもの
非常にattractiveなタイトルに見惚れてしまった。特に、第4章「正解のない時代を切り拓く読書」が参考になった。私が中学校に入学したのは今から約20年前、大学受験は約15年前となる。下の表は筆者の本から抜粋したものである。私が学習した時代は、筆者のいう『ジグソーパズル型の学習』で、正解にいかに早く到達できるかが、大学受験に必要とされた。特に要領よく(少ない勉強時間)正解を導けるかが優秀とされ、歴史や古文だけでなく、数学・化学・物理までも、基本的には問題にたくさんあたり、パターンを覚え、暗記したパターンに当てはめることで問題解決できた。つまり、情報処理力が高いことが優秀の証であった。しかし、著者はこのVUCAの時代において、いかに情報編集力が必要であるかを問いている。つまり、答えのない問題を自分から情報発信できる能力に学習成果を切り替える必要がある。確かに、情報処理力はAIで置き換えることが可能だもんな。
正解のない時代を切り拓く読書
なぜ読書をするのか?について、著者は以下の能力を向上できるとした。
5つの能力と、クリティカルシンキングの能力を合わせた6つの能力を培うことができる。
コミュニケーションする力
「異なる考えを持つ他者と交流しながら自分を成長させる技術」である。ただ必要なことを暗記して、そのまま報告してもそれは単なる呟きである。しかし、その暗記したことを用いて、他者とコミュニケーションする能力がより重要である。そのためには、「人の話をよく聴くこと」が重要であるが、読書によってこの力を育むことができる。
どのようなジャンルの本に対しても向き合うことで、先入観を排した「乱読」で、その基礎能力を得ることができる。
シミュレーションする力
「頭の中でモデルを描き、試行錯誤しながら類推する技術」である。シミュレーションをする能力を体得するためには、常に先を予測して行動してみるクセをつけることである。それは読書によっても培われる。
自然科学系の本は、多くの事象に対する判断材料を提供してくれる。
ロジックする力
「常識や前提を疑いながら柔らかく”複眼思考”する技術」である。アメリカに来て、ロジカルに話すことの大切さを身をもって感じている。日本では「あ・うんの呼吸」でなんとなく共有できることを説明しなければならない。
ロジックする力を身につける第一歩は、自分の行動や思考に筋が通っているかを考えたり、物事を相手の論理で考えてみることである。読者は、著者の論理を理解しようとすることが要求される。
そして、著者はその分野のエキスパートであるため、良質な著作を読み、著者の論理を真似することで、他者に伝えやすい論理展開方法を学ぶことができる。
ロールプレイングする力
「他者の立場になり、考えや想いを想像する技術」である。事件や歴史上の登場人物の思考や気持ちを追体験することは、ロールプレイングする力を磨くのに最良である。
プレゼンテーションする力
「相手とアイデアを共有するための表現技術」である。
著者はここで非常に上手な表現をしている。
プレゼンテーションする力は相手の脳に自分の脳のかけらを「つなげる」こと。自分の思いや考えをできるだけ率直に、わかりやすく、正確に伝える技術が必要になる。
その際に大事なことは、
①まず「他者」をイメージすること、
②次に、その他者は自分とは違う世界観で生きているのを理解すること。
その際に問われるこのは、どれだけ多くの(多様性のある)脳のかけらに触れてきたかである。
クリティカル・シンキングの力
医学論文でも批判的吟味が必要というが、「内容を読み、自分の頭で考えて、主体的な意見をもつ」という態度である。
物事を短絡的なパターン認識で捉えず、多面的に捉えることである。
日本人の多くは、小学生から大学生まで、入学試験のためにパターン認識を増幅させる力を訓練することが重要視される。しかし、この多面的な物事への理解、正解がない社会に対するアプローチとしては、著者の言う「レゴ型学習」が必要とされるのであろう。